ユリアン・プレガルディエン 13012017

いずみホール主催の「シューベルト こころの奥へ」シリーズのvol.4として開催されたシューベルト《冬の旅》の公演に行ってきた。演奏は、ユリアン・プレガルディエン(T)&鈴木優人(フォルテピアノ)。

シューベルト こころの奥へ vol.4 歌曲集《冬の旅》

ユリアン・プレガルディエン&鈴木優人

●日時

2017年1月13日(金)

●出演者

ユリアン・プレガルディエン(テノール

鈴木優人(フォルテピアノ

●演奏曲目

シューベルト:《冬の旅》op.89,D911

クリストフ・プレガルディエンのご子息、ユリアン君。実演を聴くのは初めて、と思ったけれどそうではなく、パーヴォさんが横浜でドイツカンマーフィルハーモニー管弦楽団とやった「フィデリオ」にヤキーノで出演していたのを聴いていた。その時も印象に残ったが、父親ゆずりの美声。今回思ったのは、リリック・テノールではあるだろうが、中低音域もなかなかしっかりした声でパワーもあるなということ。テノールにしては微妙な音域(水車屋の娘よりは音域が低い)のこの曲は合っているのではないかと感じた。

ドイツリートの演奏会ではめずらしく、「字幕」で日本語訳が流れた。歌詞の内容がよく分かり、より歌を楽しんで聴けた。荒涼とした感情の吐露と色彩感のない情景の描写が続く中、怒りから発せられる熱を感じさせるドラマチックな歌に引き込まれた。怒りや絶望の表現は、オペラかと思うようなスタイルで歌っていたのが印象的。冬の旅は暗いイメージしか持てなくて苦手な気がしていが、いやいや、すごい名曲ではないの、と今晩を境に思いを改めさせてくれた。ドイツ語の歌詞も自然に明瞭に聞こえてきてストレスを感じない。

いずみホール以外にも東京で公演があったようだが、全ての公演の伴奏は鈴木優人さんによるフォルテピアノで演奏された。フォルテピアノを生で聴いたのはおそらく初めて。基本的に現代のピアノと同種の音色だが、少しザラザラとした感触のする素朴な雰囲気を帯びている音。ロマンティックな中にも、素朴さが混じるシューベルトの歌曲に合っている。優人さんの華麗で堅実な伴奏も素晴らしかった。

今回のフォルテピアノは、いずみホール所蔵のもので、「ナネッテ・シュトライヒャー」の作った1820年代製のオリジナル楽器(プログラムより)とのこと。ちょっと小ぶりで外観も木のぬくもりを感じるものだった。フォルテピアノの演奏、特にベートヴェンのピアノソナタを聴いてみたい。