歌劇「ローエングリン」より「遥かな国に」初稿
昨年12月にクラシカジャパンで放送した「ドレスデンのワーグナー生誕200年コンサート」の録画を観ていました。放送された時にすぐ観てはいるのですが、今日は別の目的がありました。
[演目]
歌劇『さまよえるオランダ人』序曲(1860年版)
歌劇『リエンツィ』～リエンツィの祈り「全能の父」/序曲
歌劇『ローエングリン』～第1幕への前奏曲/ローエングリンのグラール語り「遥かな国に」(初稿)
ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ:
管弦楽のための『フラテルニテ』(1999)
歌劇『タンホイザー』～タンホイザーのローマ語り「心から熱烈に」(ドレスデン版)/ 序曲(ドレスデン版)
[演奏]シュターツカペレ・ドレスデン、ヨナス・カウフマン(テノール)
[映像監督]ミヒャエル・ベイヤー
このコンサートでカウフマンが歌ったローエングリンの「遥かな国に」は、初稿版です。ローエングリンが普通に上演される場合、「私はローエングリンだ」と名乗ったところで歌が終わる（「名乗りの歌」と言われるゆえん）のですが、初稿では「どうして私はここにやってきたのか」云々と自分のことを語る続きがあって、もう少し長い曲だったのだそうです。初演の時にこの続きの部分はカットされ、以来、初稿は全く演奏されずに今に至るというのです。 この続きの部分。CD等の音源はあるのですが、楽譜、歌詞、対訳は容易には見つからない。探せばあるのでしょうけど、歌詞の内容だけでも知りたいと思っていました。この放送の字幕を拾い書きすればいいんじゃん、と思い当り、本日やっと実行。字幕は関口暁子さんによるものです。
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名乗りの歌（通常上演される部分）
はるかな国の人の踏み込めない地に
モンサルヴァートと呼ばれる城があります
その中に光り輝く聖堂がそびえています
それは地上の何よりも美しい
そこには奇跡の祝福の杯が
神聖な宝物として見守られています
そこでは最も清らかな者が守ります
天使の群れによって授けられた至宝を
毎年１羽の鳩が天から舞い降りて
その霊験を強めます
それは聖杯と呼ばれます
至福の純粋な信仰を
聖杯によって騎士団は分かち合っています
聖杯に仕えるために選ばれた者には
天の力が与えられます
彼にあってはどんな悪の力も失われ
彼ににらまれれば死の闇は逃げ去ります
聖杯によってはるかな国に遣わされて
美徳の戦士と呼ばれた者は
その聖なる力を奪われることはない
聖杯の騎士と見抜かれない限り・・・
いと高きものは聖杯の祝福
騎士と明かされれば衆目から消えねばならない
あなたがたは騎士を疑ってはなりません
もし騎士と知られれば
あなたがたの前から消えねばならない
ではお聞きください 禁断の問いに答えましょう
私こそ聖杯によって遣わされた者
わが父パルツィファルは王冠を戴く者
その騎士である私はローエングリンと呼ばれています
～～～～～ここから初稿～～～～～～～～
お聞きください 私がここに来たわけを
聞くところによると遠くの寺院で
１人の乙女が苦しんでいると
そこで聖杯にお伺いを立てました
どの騎士を遣わすべきか
すると流れに１羽の白鳥が 小舟を引いて現れました
わが父は白鳥に気づき 聖杯のお告げを伝えました
”１年間聖杯に仕えれば魔法の呪いが解けるだろう”
そこで白鳥は私を連れて 助けを求める声のところへ向かいました
聖杯によって私は戦士に選ばれ 勇気を出して聖杯と別れたのです
川の流れを越え海の荒波を超えて
誠実な白鳥は私を導き この岸辺へとたどり着いた
あなたがたは神によって私の到着を見たのです
～～～～～～～～ここまで～～～～～～～～
まあ、たいした内容でもないと言えるかもしれない。だからカットされちゃってもあまり影響ないけど、オルトルートの魔法で白鳥に変えられていたゴットフリートが、最後に戻ってくるところの伏線にもなっている。歌詞につけられている音楽が、内容にそって既出のメロディーやモチーフを引用していたり、音楽がよくできていて聴いていて楽しいのです。今回の演奏では、名乗りの部分が5分、続きの部分が2分とちょっと。ローエングリンの第3幕は、上演に際してはその他の部分でも大幅なカットが入るようですが、たった2分くらいだったらカットしなくてもいいのに、なんて思うのは私だけでしょうか。歌手は大変だけど。 全く、ワーグナーのオペラは長い上に、最後にとっておきの聞かせどころの歌があるので、歌手は本当に大変だと思う。マイスタージンガー、ローエングリン、タンホイザー、みな同じパターンだ(笑)
